「クルマに観る未来」-活動レポート・識者からのメッセージ-

自動車技術
2020.03.11

次世代自動車について

Motor Journalist 中田 和夫

次世代自動車を考える時、アタマに浮かぶのは「FCV」と「自動運転」ではないでしょうか?
キーワードは「ゼロ エミッション」と「コネクテッド カー」その実現に欠かすことのできない「〈5G〉第五世代通信技術」です。
「FCV」による「ゼロ エミッション」も、「コネクテッド カー」の「自動運転」もそしてメディアを通じて、多くの情報がもたらされ、すぐにでも手に入れることができる、と言う錯覚に陥ります。
しかし、「ゼロ エミッション」だけを見ても、これをパーフェクトに達成できる「FCV」については現在。国内で販売されているクルマは「トヨタMIRAI」と「ホンダ クラリティ」の、たった二車種のみなのです(研究試作車両は各メーカーとも数種を持っていますが)。
加えて「FCV」に欠くことのできない燃料である「水素」を供給するステーションも増えているとは言え、まだまだ満足なレベルの数ではなく、地方に出かけて行くには、その地域の「水素ステーション」の有無をチェックしなければならないのが現状でしょう。
さらにエネルギー源となる水素を電気に変換させる燃料電池スタックの生産性とコストの問題の解決に時間がかかることも「FCV」の早期普及のネックに挙げられましょう。
確かに「FCV」は最先端の次世代自動車なのですが、「車両価格」「燃料供給の利便性」などいくつもの宿題があり、広く一般に浸透利用されるには、少し時間がかかるように思います。
現在は「ゼロ エミッション」を達成する「FCV」の時代が到来する前の段階として、「ゼロ エミッション」に近づける「HV」が多くデビューし、より「ゼロ エミッション」に近づく「PHEV」そして実質「ゼロ エミッション」の「EV」が脚光を浴びるころになるでしょう。
しかい、「EV」も充電が必要で、その基地となるところが少なく、一充電による航続距離の延伸が開発の課題となっています。(一部車種では一充電で400km走れるものもでてきました)

「プリウス」が代名詞格となっている「HV(ハイブリッド車)」は、トヨタ自動車が1995年の第31回東京モーターショーに「プリウス プロトタイプ」を参考出品し、大いに注目され、1997年12月に「プリウス」として市販が開始されました。
以来、3回のフルモデルチェンジを経て現在に至り、トヨタのハイブリッドシステムは、22年のキャリアをもつ、信頼の置けるものとなっています。
トヨタのハイブリッドシステムは、齢を追って進化し、「プリウス」の他、「アクア」「カローラ」「カムリ」「クラウン」「センチュリー」と、コンパクトカーからショーファードリブンカーまで巾広く採用され、さらに、「ボクシー」「ノア」「エスティマ」「ヴェルファイアー」「アルファード」など1BOX系、「プロボックス」「トヨタエース カーゴ」など商用車系、SUVの「ハリアー」そしてタクシー専用車「ジャパンタクシー」まで幅広く網羅しています。
モータースポーツにおける「HV(ハイブリッド車)」の活躍も見逃せません。

「TOYOTA TS050 HYBRID」 が、2018年6月に開催されたルマン24時間レースにおいて、総合優勝、第2位を獲得し、その技術レベルの高いことを示しています。
「TOYOTA TS050 HYBRID」はトヨタ自動車のハイブリッド技術の象徴とも言えるもので、プリウスに搭載されている電池の10倍に相当する300kwhのハイパワーリチウムイオン電池を搭載し、500psを発生する2400ccのV6DOHCchokufunnツインターボエンジンと、前後軸合計500psのハイブリッドモーターによって綜合出力1000psを誇ります。
ホンダは、1999年の「インサイト」以来、多くの車種に「HV」仕様を展開しています。
現在のラインナップはコンパクトカー「フィット」「シャトル」、ミニバン「フリード」「オデッセイ」「ステップワゴン」、SUV「ヴェゼル」「CR-V」、セダン「グレイス」にガソリンエンジン仕様とともに「HV」仕様を展開しています。
「HV」専用車両としては、スポーツカー「NSX」、セダン「アコード」「インサイト」「レジェンド」を展開しています。

スズキも少ないながら「HV(ハイブリッド車)」を展開しています。
軽自動車の「ワゴンR」「ワゴンRスティんグレー」「スペーシア」「スペーシア カスタム」「スペーシア ギア」、小型車「イグニス」「クロスビー」「スイフト」「ソリオ」「ソリオ バンディット」に独自のハイブリッドシステム「マイルドハイブリッド」を搭載しています。
これらはISG(モーター機能付き発電機)と専用の12Vリチウムイオンバッテリーを組み合わせ、減速時の回生エネルギーを利用して、発進加速時にエンジン出力をアシストします。
マイルドハイブリッド車は「HV」として稼働するのは発進時の約10秒間、加速や登坂時の約30秒間程度であると割り切り、大出力の電気的アシストを必要としていません。
「スイフト」「ソリオ」「ソリオ バンディト」にはマイルドハイブリッドとは別のハイブリッドシステムを搭載したグレードも設けています。
このハイブリッドシステムはMGUと呼ぶ最大出力10kwhの駆動用モーター(発電機能も持つ)と、100Vリチウムイオンバッテリー+インバーターをコンパクトにまとめたパワーパックから成り立ちます。「EV」走行が可能な上、発進加速時はエンジン出力ぶモーター出力が上乗せされた出力で走ることで、俊敏性が得られるとともに、大幅な低燃料費化も実現できるものとしています。
ミニバンの「ランディ」もハイブリッド車両とされていますが、日産セレナのOEM車であるため、そのシステムは後述する日産「SERENAr-POWER」と同じになっています。

こうした「HV(ハイブリッド車)」の開発技術の進歩(電池性能向上、モーター消費電力の省力化、ジェネレーターの高出力化、電気エネルギーマネージメントの精密化など)から「EV(電動車)」 「PHEV(プラグインハイブリッド車)」が派生していったと言えましょう。

「EV(電動車)」は電源から車載の電池に充電を行い、その電力を利用してモーターを回し、推進力にしています。
「EV(電動車)」の発生の歴史は古く、内燃機関による自動車の5年前に出現しています。しかし、電力による航続距離の短さから、容易な燃料追加によって大幅に航続距離が伸びる内燃機関自動車に取って替わられています。
1908年T型フォードの出現がそれでした。それ以降「EV(電動車)」の進化は足踏み状態に陥ります。
約一世紀を経て、再び「EV(電動車)」として脚光を浴びたのは、充電池の性能向上と環境性能の向上が自動車に求められたところにあります。
特に充電池の基本性能向上、駆動モーターの省電力化、電流マネージメントの向上によって、一充電による航続距離の大幅な延伸が可能になっています。
「EV(電動車)」としては三菱自動車が「i-MiEV」「ミニキャブMiEV」を、日産自動車は「リーフ」「e-NV200」は車載リチウムイオン電池に充電することでエネルギーを蓄え走行しますが、「NOTEe-POWER」「SERENA e-POWER」は車載エンジンより発電し、その電力によって走行するもので、「EV(電動車)」ではありますが、事実上の「HV」とも言えるものです。
「PH(E)V」はトヨタ自動車が「プリウスPHV」ホンダが「クラリティーPHEV」三菱自動車が「アウトランダーPHEV」をラインナップしています。「プリウスPHV」「クラリティーPHEV」は乗用車、「アウトランダーPHEV」はSUVと主用途が若干異なりますが、共に、比較的長距離の「EV(電動車)」走行が可能であるところをセールスポイントとしています。
「HV」「EV」「PHEV」そして「FCV」に連なる、技術の進化は、化石燃料をエネルギーとした時代を脱し、環境性能を重視した次の世代に向けたメッセージと受け取ることができます。

次世代の自動車を考察する時、今や、自動車本体のみの進化を考えることはできません。
大きく変貌する社会環境の中にあって「調和する自動車」こそが次世代の求める自動車なのではないでしょうか?

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